春を過ぎると、なぜだか京都に行きたくなります。
忙しさも減って、ほかのことに目を向けられるからでしょうか。それとも、ただ単にゴールデンウィークでそういう気分になっているからでしょうか。
でもゴールデンウィークって、それはそれで人が多いから少し尻込みしてしまうのですけどね。
なんで京都なのかって、理由はいろいろあるように思います。観光名所だからなのもあるでしょうし、雰囲気が好きというのもあるでしょう。
私にとっては、ただ写真を撮りに行きたいと強く思える場所である、そして気になるお店がたくさんある場所である、というのが大きな理由です。
4月も半ば頃、もうすでにどこの宿も埋まっているのだろうなあ、と思っていたのです。が意外や意外、あっけなく予約が取れてしまい、ぜいたくに6日間も何も考えない京都旅行がはじまったのです。
お供のカメラはSONY α7 II + Helios 44-2 58mm F2 & FE 24-240mm F3.5-6.3、それにLeica M4P + Color Skopar 50mm F2.5を加えて。
いざ観光!という面持ちでもないので、京都に来たとはいえ撮る写真はそこまで京都らしくなかったりします。
でも、京都らしさってなんなのでしょうね。神社仏閣?古い街並み?山?川?
昔の日本の風景が残っているのですから、それがイコール京都らしさにも繋がるのでしょうが、もうちょっと、目に見えないところに京都らしさはあるんじゃないかと思います。
なにかそういった、京都らしさのパターンが見出だせれば……そんな気持ちでファインダーを覗いてみるのですが。
目につくと、やっぱり撮っちゃいますね、こういうの。ええ、大好きです。
“昔ながらの日本らしさ”と”京都らしさ”を振り分けて探すのは、付け焼き刃な目線ではさすがに見えませんでした。
なにかこう、京都らしさを成立させているコンポーネントのようなものを見つけられるのでは……と当たりをつけていたのですが、そうそう姿を現してはくれませんね。無理もない。
難しい話はこれくらいにして、あとはひたすら京都の楽しい思い出を振り返ってみようと思います。
将軍塚青龍殿に展示されている吉岡徳仁氏のガラスの茶室『光庵』を手前に、青龍殿の屋根と。素材や形状から時代の流れを感じます。
事前情報ナシで訪れた南禅寺はまるでテーマパークのような広さ。日常生活にはないスケールの大きさが、普段使わない感覚を刺激してくれます。
比べられる大きさでもありませんが、現代の商業施設が持っている息苦しさが全くなくて、ほっとします。現代社会にこそ余裕のある建築物や空間が必要なんじゃないかなあと思うのですが、どうでしょう。
鮭の切り身にも見えますが、南禅寺で出会った屋根です。緩急のある曲線がセクシーですね。ふわっと広がったラインがシュッとまとまっていくあたりなんて、いつまででも眺めていられます。
京都を巡っていると、木や土の表情豊かな建物によく出会います。
素材が持つ表情って何をもって感じ取れるのだろうと考えてみたのですが、ひょっとするとそれは表面の小さな変化の集合体なのかもしれません。
ある種の不均衡さと言いますか、乱れと言いますか、「それぞれが違う」ことの集まりが皺となり表情として見えるんじゃないかと、そう思わされます。
言葉を言い換えて考えてみると、『生の痕跡』とも言い換えられそうです。そこに何かがあった、あるいはあるんじゃないかと思わされることは、静的ではなく動的な存在の認識に繋がり、対象を生き生きした存在と見ることができるのではないでしょうか。
ザ・工業製品なのっぺりとした表情の建築やプロダクトもそれはそれで好きですけどね。
そういえば「気になるお店がたくさんある」と書いていたのに紹介がまだでした。
京都に到着してからも素敵な場所にたくさん出会えたのですが、最初から訪問予定に入れていたのは次の3店です 。
今宵堂さん
実は私、大阪に1年半ほど住んでいた時期があります。
個人的に東京よりも大阪のほうが好きでして……という話はさておいて、当時は大阪→京都の近さ、移動費の安さに心底びっくりしたものです。
何しろ往復で1000円ちょっとなわけです。そうだ、なんて思う間もなく京都に行けちゃうのです。これは東京生まれからしたら価値観の破壊でした。
そんなわけで休日はちょくちょく京都に行ってたのですが、ある日たまたま催されていた焼き物市で出会ったのが、今宵堂さんの酒器でした。
自分が普段目にしていた酒器って、無駄に色がついていたり、意味もなく造形がなされていたんですよね。
でも今宵堂さんの器は違っていました。削ぎ落とされたシンプルな造形。なのに、遊び心がある。佇まいがある。ほとんど一目惚れでした。
その時は何も知らずに徳利やお猪口をお買い上げしたのですが、あとあと調べてみるとオンラインショップがちゃんとあるわけではなく、注文しても届くのは数ヶ月〜1年先。しかも京都の工房でしか販売されていない器もあるということで、東京に戻ってからもいつか行きたいなぁ行きたいなぁとそわそわしていたのです。
初めて訪れた工房は、町家を改修してギャラリー兼売り場が併設されている、小さくて素敵な空間でした。
奥様が応対してくださり、お茶菓子など頂きながら上述の京都の話、今宵堂さんの酒器がきっかけで日本酒に興味を持ったことなど、たくさんお話できました。
もちろん、ここぞとばかりに器もお買い上げさせて頂きました。
工房・ギャラリーの写真は、緊張していたのもありますが、また次も訪れたくなるようにあえて撮らず。
またぜひ、近いうちにお伺いしたいです。
ウサギノネドコさん
ウサギノネドコ
ウサギノネドコさんは花や種子をアクリルのキューブに閉じ込めたプロダクト『宙cube』で有名な工房です。
私も折にふれてお買い上げしていまして、特に2013年に浅草で行われた展示会で限定販売されていたゼンマイのアクリルキューブは大のお気に入りで、今もオフィスの作業スペースに置いています。
そんなウサギノネドコさん、なんと京都には直営のカフェがあるのですよね。全然知りませんでした(ちなみに隣にストアが併設されていて、しかも2階は宿泊できるそうです)。
さてさてこちらのカフェ……と言いつつ写真はないのですが、小さいながらも整った、澄んだ雰囲気の素敵な空間でした。木やコンクリート、それとたぶん漆喰かな?さまざまな素材でできあがった空間は不思議と調和が取れていて、いちばん奥にある一段上がった部屋には天窓から降り注ぐ陽の光が……
しかもご飯がおいしい。ケーキがおいしい。最高です。ひとつのお店でいろんな空間が楽しめる、素敵なカフェでした。
そして、ちょうど訪れたタイミングで桜の宙cubeがストア限定で販売されていまして。そりゃあもう、お買い上げするしかないですよね。
木と根さん
御菓子丸さん、というとても綺麗な和菓子を作られている工房さんがあります。
主宰の杉山早陽子さんはもともと創作和菓子ユニット『日菓』のメンバーだったのですが、日菓解散後にお一人で御菓子丸の活動を始められました。
その御菓子丸さんの和菓子が一時期食べられるということで話題になったのが、カフェが併設されている暮らしの用品店『木と根』さんです。
気をつけないと見逃してしまうくらい小さなそのお店ですが、しかし中に入るとその独特の雰囲気によって一気に虜になってしまいました。
扱われている日用品(食器が主)の数々は、今宵堂さんの器にも通ずるシンプルさが魅力的。最奥に控えめに佇んでいるカフェスペースは、10人も入れないほど。そのどれもが人の手を感じさせてくれて、とても心地の良い空気を生んでいます。
特にカフェの魅力は写真で感じ取るのは難しいでしょう。ぜひ、実際に訪れてほしい場所です。
そうそう、レンズの話も少ししましょうか。
Helios 44-2 58mm F2は手持ちのレンズの中でもお気に入りの一本です。特徴的な開放でのぐるぐるボケの楽しさもありますし、中央の解像度の高さも個人的には気に入っています。なにより58mmという焦点距離も素敵ですね。標準と言われる50mmよりも、少しだけ踏み込んでいるのが特別な感じを与えてくれます。
周辺までビシッと解像させるのは苦手ですが、雰囲気のある描写はお手の物ですね。
FE 24-240mm F3.5-5.6は10倍ズームの万能選手。可もなく不可もなく、普段使いはしないけれど、こうした旅行では大活躍です。まぁフルサイズEマウントだと他に選択肢がないという事情もあるのですが……
テレ端だと周辺がそこそこ流れますが、24mmなのでぜいたくは言えませんね。中望遠はしっかり写してくれる印象です。
書き足りないことや書き忘れたこともありましたが、6日間の京都旅行で感じたことをゆるりと書き連ねてみました。
京都らしさとは何か。それはまた次の機会に、やり残した宿題ということでしばらく寝かせておこうと思います。