カメラに興味を持ち始めた人であれば、いつかは出会う魔法の言葉があります。
ライカ。
この3文字に秘められた魅力、いいえ魔力にどれだけの人が抗おうとし、そして取り憑かれたか。
実は以前はライカが嫌いな側でした。
理由はいろいろあったように思うのですが、存在を知った頃にはすでにM8が出ていて、なんだか成金趣味っぽいなあとか、わざわざデジタルで買う理由があるのかなとか、いまいち存在意義を見出だせなかったのですよね。
もともとレンジファインダー自体には興味があったので、ライカを買う必要はないと判断し、コシナのVoigtlanderを愛用する日々を送っていました。
ただ、雑誌やインターネットを見ていると、あの違和感はあくまでデジタルライカに向けてのものであって、フィルム時代のライカには当てはまらないんじゃないかと考えるようになりました。
機械式、フルマニュアルな機構から発せられるインダストリアルの美しさ、シンプルなインターフェイス、うっとりするシャッター音。当時は高価だっただろう価格も、ある程度の状態であれば現代では手の届く範囲。
ライカを好きになるチャンスがある、と直感しました。
そうしてやってきたのが、Leica M4-Pです。
わかります。ライカと言えばM3という声もあるでしょう。機械式ライカの完成形と呼ばれるM4という声もあるでしょう。いやいやM6だ、とも思われるかもしれません。
でも、当時の自分にとってのベストアンサーはM4-Pなのでした。ドイツ製にこだわる選択肢もあったのでしょうが、手頃な価格帯と機械式としてこなれた操作感の両方を持っているのは、M4-Pでした。ブラックペイントが欲しかったので、M3やM4だと残念ながら手が届かないんですよね。
まるで、ずっと使い続けてきた相棒のように手に馴染む感覚――初めてライカを手に取った時に、自然と思い浮かんだ言葉です。
ああ、これがライカなんだと、頭ではなく手で理解した瞬間でした。
使ってみると、その実感はより強くなりました。写真を撮るという行為を最大化するために削ぎ落とされたインターフェイス。丸みを持った側面は、すっと手に収まり、安心と安定をもたらしてくれる。Voigtlanderよりも静かなシャッター音は、撮影者の存在を限りなく隠してくれる。
写真を撮るだけならどんなカメラでもよいと思います。静かに写真を撮りたいのならデジカメを使えば目的は達成されるでしょう。でも、ライカだから撮れる写真がある。ライカだから、撮りたくなる写真があるように思うのです。
さてライカを買ったのだから当然レンズもライカだろう、と思われるかもしれませんが、残念ながらそこまでの資金力は私にはありませんでした。加えて言うと、自分の求めていたレンズ像に合致するものがライカレンズでは見つけられませんでした。
求めていたレンズ像、それは
・焦点距離が50mmである
・明るさよりも軽さを重視
・ピントレバーがある
・できるだけ安価
を全て備えたものでした。
まず焦点距離ですが、これは単純に個人の好みです。35mmだと広く感じてしまうのですよね。一歩踏み込んだ50mmが、自分にとっての標準距離です。
明るいレンズも大好きですが、その結果重くなると、持ち出すのにちょっとした気合が必要になってしまいます。できればライカは気軽に持ち出したい。そのためには軽さが必要でした。
レバーの位置によって合焦距離が指元で分かるピントレバーは、スナップ撮影と相性がよいため必須であると考えました。
これらを達成し、かつ安価ならなおよい。というのが条件でした。
そんな都合のいいレンズがあるのだろうか……不安になりながらも探してみると、1つのレンズに辿り着きました。
それがCosina製のCOLOR-SKOPAR 50mm F2.5。Lマウントレンズです。当初Mマウントでしか探していなかったので、Lマウントは盲点でした。
すでに生産は終了、しかもなかなか中古市場に出てこないというレアなレンズでしたが、オークションを粘り強く観測することでどうにか手に入れることができました。
その性能を一言で言うなら、極めて平凡。操作性になんら問題はなし。驚くような写真にはならないけれど、普通に撮れる。
でもそれが自分の撮影スタイルにとても合っていました。ライカで撮ることを邪魔しないレンズ、とでも言いましょうか。
M4-Pを買うときに決めていたことがあります。それは『基本レンズは1本にする』。
アンリ・カルティエ=ブレッソンがM3と50mmだけで撮っていたように、シンプルなライカだからこそ、撮影スタイルもシンプルでいきたい。
そんな願いに、COLOR-SKOPAR 50mmは応えてくれました。