アラジンの魔法の箱、と呼ばれていたカメラがあります。
そのカメラはシャッターを押せばあっという間に写真を現像してくれて、すぐにみんなと見ることができました。それを作ったのはアメリカのポラロイド社。種類としてはインスタントカメラですが、もはやポラロイドと呼ぶほうが馴染みがあるでしょう。
今回の主役はポラロイドカメラの中で最もアイコン的な存在であり、多くの人に今も愛されているカメラ、SX-70です。
発売は1974年。今から40年近くも昔のことです。
魔法の箱はそのままでは写真が撮れません。まず、ちょこっとでっぱっているファインダー部の片側を上にあげます。そのあともう片側を上げると、一緒にボディも展開されて撮影体制に入ります。ジャコッ、ガシャッ、という感じですね。
フィルムを装填すれば、基本はフォーカスを合わせてシャッターボタンを押すだけ。
カチッ、ジャカッ、ジーーーーー……
そうして、数秒前まで見ていた景色が、手元にやってくるのです。
しかし、今ではもうオリジナルのフィルムは手に入りません。デジタルカメラの隆盛にポラロイド社は乗り遅れてしまったのです。結果、ポラロイドフィルムの生産は中止。ポラロイドカメラで、あのスクエアフォーマットで撮ることはできなくなりました。いえ、できなくなるはずでした。
2010年、ある企業から新しいフィルムが発売されます。企業の名前はIMPOSSIBLE。不可能という名前の会社が発売したのは、スクエアフォーマットのポラロイドフィルムでした。今回のもう1人の主役です。
発売当初は現像時間が長いとか光に弱いとか弱点ばかりでしたが、少しずつ改良が重ねられ、新たに発売されたバージョンでは、ついに現像時間がこれまでの半分にまで短縮されました。
気のせいか、発色もよりオリジナルに近くなったように感じます。気のせいかな?
なぜ今の時代に自分はポラロイドを使い続けているのか。
いくつか理由はあるように思いますが、なかでも『極端な制限さ』に惹かれているような気がします。
1パックで撮れるのはたった8枚。撮影と同時に現像がはじまるので、撮った写真はそれ1枚だけが唯一オリジナル。現像時間は、短くなったとは言え約20分。
スマートフォンやデジカメと比較するまでもなく、とてつもない制限です。でもだからこそ、記憶に強く残る。制限とは、言わば『ひっかかり』のようなものです。ひっかかりが発生すると、人間の思考はその時その時と向き合います。ちゃんと撮らないと無駄になるぞとか、いま何枚撮ったっけとか、そろそろ現像できたかな、とか。そうして、たった1枚の写真が、体験として強く記憶される。
ポラロイドには失敗写真なんてないと思うのですよね。あるのはただ、そこにあった過去の記憶だけ。
もちろんブレたとか、露出が明るすぎた・暗すぎたなんて話もあるかとは思いますが、それも含めて、ポラロイドなのかな、なんて。