ライカ Mマウントのレンズが使えるデジタルカメラと聞くと、ライカ Mシリーズ(M8, M9, M-E, Mなど)を思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。
最近だとミラーレス一眼カメラにマウントアダプターという選択肢もありますし、ちょっとマニアックなものだとRICOH GXRにもMマウントのユニットがあったよな、と思い出す方もいらっしゃるでしょう。
もちろんレンズだけを楽しむのであればミラーレス一眼カメラが有力候補ですが、せっかくMマウントのレンズを楽しむのであればレンジファインダーで味わいたいもの。ライカ製ではない、でもMマウントレンズが楽しめるレンジファインダーデジタルカメラをご紹介します。
こちらが今回ご紹介するEPSON R-D1s。そう、プリンターで有名なセイコーエプソン製のレンジファインダーデジタルカメラです。
実際は制作にコシナが関わっており、ボディの意匠にはコシナのBESSAシリーズの面影が色濃く残っています。
R-D1sはR-D1シリーズの2機種目であり、初代はR-D1、後継にはR-D1xGが存在します。
センサーサイズはAPS-C。画素数は610万画素。おいおいずいぶん低い画素数じゃないかと思われたかもしれませんが、そう、R-D1sはもう10年も前に発売されたモデルなのです。
それではR-D1sの特徴をひとつひとつ見ていきましょう。
レンジファインダーである
なんといってもこれでしょう。R-D1シリーズは紛うことなきレンジファインダーカメラです。
10年前と言ってもフィルムライカよりも新しいのですから、等倍率のファインダーから見える二重像はより鮮明に映ります。
フレームは28mm、35mm、50mmの3種類。
シャッターを切るのにチャージが必要である
個人的に私が気に入っているのがこのギミック。
なんとフィルムの巻き上げレバーを模したレバーをチャージしないとシャッターが切れません。
連写なんてもちろんできないし、巻き上げ忘れがあるとせっかくのシャッターチャンスも逃してしまいます(よくやります)。
デジタルなカメラなのにまるでフィルムカメラのよう。でもこれが逆に撮影する楽しみを生む原動力となります。
時計の技術を活かしたインターフェイスがある
セイコーエプソンは名前のとおり、プリンターやプロジェクター以外に時計も作っています。
その技術を応用してR-D1シリーズに搭載されているのが、まるで時計を思わせる針式のインジケータ。
このインジケータにはそれぞれ、撮影可能枚数(外周の数字)、ホワイトバランス(左の針)、画質クオリティ(右の針)、電池残量(下の針)が割り当てられています。
ホワイトバランスと画質クオリティの切り替えには、左に搭載されているジョグダイヤルを利用します。ジョグダイヤルはフィルムの巻き上げノブを模しており、一層フィルムカメラらしさを演出しています。
背面のディスプレイが閉じられる
フィルムカメラの見映えに近づけられるダメ押しが背面ディスプレイの仕組み。回転させて裏返すと、もうフィルムカメラにしか見えません。
シャッターチャージもディスプレイの回転も省電力を目的としているのでしょうが、フィルムライカのようにデジタルカメラを使いたいというユーザーのモチベーションに自然に繋げているのがとても素敵です。
さてこんなR-D1sに1本だけレンズを付けるとしたら何がよいでしょうか。
Mマウントレンズは28mmも35mmも50mmも名玉揃い。お金の問題はさておき、悩んじゃいますよね。
私はと言うと、逡巡の末にコシナのVoigtlander NOKTON Classic 40mm F1.4 シングルコートにしました。コンパクトでありながら明るいレンズゆえ夜間の利用にも耐えられること、どうやら35mmのブライトフレームとほぼぴったりらしいというのが主な理由です。お値段的なお話もありますが、好みの映りです。
あえて画質には深く触れませんが、610万画素でも十分な解像度を発揮してくれています。
JPEG撮って出しではあえてノイズが乗ったフィルムライクな絵作りとなっていますが、RAWデータで撮ればこのサイズでは最新のカメラとも遜色はないのではないでしょうか。
世代的に高感度に弱いのでは?という不安も最初はありましたが、そこはさすがのAPS-Cセンサー。自分としては常用でも問題ありません。
綺麗に撮るのももちろん大事ですが、時には撮る楽しみを優先したいときもあったりします。フィルム感度が自由に変えられるライカ、と考えるだけでワクワクしませんか?
そもそもなぜR-D1sを買ったのか。ギミックの詰まったこのカメラが好きだからという側面もありますが、本質としては「撮影に集中して楽しむデジタルカメラが欲しかった」のが大きいです。
自分が写真を楽しいと思える瞬間、いろいろあるのですが、やっぱりフィルムで撮ってる時は格別の楽しさを感じるのですよね。
シャッターを巻き上げて、ピントを合わせて、シャッターボタンを押す。何かが心にひっかかった瞬間を見つけて切り取る。枚数の制限が気持ちのいい縛りとなって、あれこれ悩んだり。
現像まで間があるので、空間とか目の前の景色というよりは時間を切り取っているような感覚があります。
操作に余計な要素が何一つないのも素敵で、デジタルカメラのように多機能でもないので、撮ることに専念できるのですよね。そんな感覚をデジタルでも味わいたくて、見つけたのがR-D1シリーズでした。
実はR-D1xGのほうが全体的な性能が向上していたり、メンテナンスを考えるとまだ新品が最近まで売られていたりサポート期間が2021年まで残っていたりと有利なのですが、ディスプレイが固定式という1点だけで候補からは外れてしまいました。
R-D1シリーズに今から興味が出て新品に近いものや性能が良いのを使いたいと考えている方には、xGがオススメです。
最後に、R-D1xG販売終了時のセイコーエプソンさんのブログ記事を引用して終わりたいと思います。
たしかにR-D1シリーズは時代を作ったのだと、そう感じる熱い想いが込められています。
R-D1は、世界初のレンジファインダー式デジタルカメラとして、2004年に写真を楽しむ環境がアナログからデジタルに大きく変わる中、販売を開始致しました。当時はデジタルカメラといっても、コンパクトデジタルカメラが主流で、デジタル一眼レフはようやく発売されたばかり。しかも、高価な商品でその頃はまだまだフィルム一眼が写真愛好家たちの主力機種だったことは間違いありません。
(中略)
そのような中でエプソンとして、お客様が理想とする高品位なインクジェットプリントを実現するための入力機器として、デジタル入力機器の開発を進める必要がありました。
(中略)
近年はデジタル技術の進化により、多くのカメラが生活の中に浸透し、高品位な写真のインクジェットプリントをお楽しみいただける環境が整ってきました。
その中で、世界に先駆け先行したR-D1シリーズも、デジタルカメラの分野に相応の影響を与えたと思います。
そしてその入力機器としての役割を終えたと考え、R-D1xGを最後に販売終了となりました。
今回の機材
クラシカルなカメラには、クラシカルなレンズを。お手頃な価格も嬉しさの1つ。